[読了] 孤独との付き合い方を考える本(緑川ゆき「夏目友人帳1」花とゆめCOMICS)

妖怪はひとの姿をみることができる。しかし,ひとは妖怪の姿を見ることができない。けれども,主人公の夏目は妖怪を見ることができる。

夏目は幼いころ,両親をなくして,親類の家をたらい回しにされている。大人たちは自分を邪魔者だと思っている。他のひとには見えないものと喋っているので,周りのひとからは,ひとりでぶつぶつ喋っている変な子どもと思われている。

他のひとが見えないものを自分だけ見ることができる。みんなには話してもわかってもらえない。嘘つきだと言われるだけだろう。孤独というのは,ひとりでいることではなくて,分かり合える可能性がないことを言うんじゃないだろうか。

姿の見える妖怪たちも,その姿は異形であるし,ふつうの話はできそうにもない。夏目はひとの世界にも妖怪の世界にも所属できない状態でいた。にゃんこ先生に出会い,祖母の存在を知るまでは。自分はひとりじゃないと知ることには,たしかに大きな力がある。

第1巻では,自分はひとが見えるが,ひとからは自分が見えないふたりの妖怪のはなしが印象的だった。ひとりは自分を信仰してくれている人間とともに消えていく妖怪,もうひとりは自分を助けてくれた人間にありがとうと言いたかった妖怪のはなし。

自分は見えるが,相手には自分が見えないかなしさというのは人間にもわかる。自分には大切なひとであっても,そのひとからはなんとも思われていないということはよくあることだ。心理学でいう孤独の定義は,自分が望む人間関係が実際には得られていない状態を孤独という。相手に気づいてもらえないというのは,孤独の極みといってもいい。

しかし,それでもいいという場合もあるし,いや,やはり自分というものを相手に知って欲しい,知ってもらえてうれしいということも確かにある。第1巻ではどちらのバージョンも描かれてあって,分かり合えない悲しみが,すこし解け,また解けという,誰かが救われることが,なにか世界全体が救われるような気持ちになって,ここちよい。

けれども,結局のところ,分かり合えないのであるから,一時の喜びの背景には悲しみが濃くある。

夏目友人帳は孤独との付き合い方を考える本と言える。

  • 緑川ゆき(著)「夏目友人帳 1 」(花とゆめコミックス) [Amazon]

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