夏目友人帳,第3巻,第10話は恋のはなし。
妖と人間の男が恋仲になる。ある日を境に,男は妖が見えなくなる。妖には男が見える。男は毎日妖に会いにきて,名を呼ぶ。妖は男のすぐ側にいて,男に返事をするけれども,男には見えないし,妖の声も聞こえない。そのうち,男は妖に会いに来ることもなくなった。妖はそれ以来ずっと男を待っている。
主人公の夏目は妖が見えることで,小さいころから,孤立していた。妖と人間の恋の話を聞いて,夏目は妖を見る力が急になくなる場合もあることを知る。自分にもいつかそういうときがくるのではないか。
見えていたものや聞こえていたものが,ある日を境に見えなくなったり,聞こえなくなったりすることは,普通の人間にもある。誰かの死を経験する。そのひととの記憶はなくなりはしないが,ある世界がひとつなくなった感覚になる。
男がすぐ側にいることに妖は気づく。蛍に姿を変えて,男の側に行こうとする。男の顔をもう一度見たいという。しかし,もう妖には戻れない。蛍に一度姿を変えたら,蛍として死んでいかなければならない。
妖は蛍となって男に会いに行く。男はその蛍があの妖だとはわからないだろうけど。
なぜ,妖は蛍になることを望んだのか。妖のままであっても男の側にいくことはできるし,男の顔を見ることもできる。なぜ,死ぬことがわかっているのに蛍になるのか。
蛍であったとしても,男の目に自分を映したかったからだろうか。男は結婚するらしい。
妖は自分で消えていくことを選択した。死ななくてもよいのにと思う。一方で生きる意味がないのに生きていても仕方がないというのもよくわかる。ひとの人生の価値を他人が評価するのはまちがっているけれども,自分の今の人生に意味があるのかないのかは判断できる。そして,意味がないと思う場合はわたしたちはいつだって死んだつもりになって,やり直す。
あれ?
あの妖も死んだつもりになって,やり直したのかな。いつまでも気づかれないままのところにいるのをやめて,気づかれる生き方を選んだ。人生は短くなってしまうけれども,その人生は素晴らしいもののように思う。
夏目友人帳,第3巻を読んで,こんなことを思った。
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